「AIと科学と芸術」をテーマに茂木健一郎氏と池上高志氏が対談 情報科学芸術学部(仮称)の開設企画で

2026年度開設予定の「情報科学芸術学部(仮称、構想中)」の学びの魅力を伝えようと、8月のオープンキャンパスに茂木健一郎氏を招き、『AIと科学と芸術』をテーマに、新学部設置準備委員で東京大学大学院総合文化研究科の池上高志教授との特別対談を開催しました。
茂木氏は、脳と心の関係を探求するソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員で、テレビ出演や著書も多い脳科学者。池上教授は、生命そのものを人工的に作り出そうとする「人工生命(Alife)」研究の第一人者で、アートとサイエンスの領域をつなぐメディアアーティストとしても活躍されています。
茂木氏のYouTubeチャンネルでも度々対談してきた旧知のお二人による軽妙なトークで、文京キャンパスに集まった約300名の高校生や保護者の笑いを誘いながら、AIとは何か、新しい学部が目指すもの、どういう学生に学んでほしいかなどの新学部構想が披露されました。対談の一部をご紹介します。

友人同士の茂木健一郎氏(左)と池上高志氏による息の合ったトークを展開
高校生が社会に出るころのAIの存在とは
茂木氏:AI(人工知能)を池上先生はどのようにとらえていますか。今日はオープンキャンパスなので、高校生にわかるように教えてください。
池上氏:ぼくは研究人生で驚いたことが二つあって、ひとつはchaos(カオス)のシミュレーションで、もう一つがChatGPTです。コンピューターのプログラムを書いていて、夜中の3時にどうしようもなく煮詰まって、ChatGPTに聞いてみたんです。どうしたらいいかって。そうしたら、「7行目から14行目までを、後ろと入れ替えたらどうか」と提案してきた。そしてこれがうまくいった! すごく衝撃を受けました。夜中の3時に話を聞いてくれる大学院生はいないですからね。
池上氏:プログラムの作り方が根本的に変わったわけです。プログラミングって難しいように感じるかもしれませんが、今はChatGPTに、「こういうプログラムを書きたい」と指示すると、なにか作って、返してくれる。返ってきたものがおかしければ、「これは変じゃないか」と対話を続けるうちに、プログラムが出来上がってくる。ウソだと思うかもしれないけれど、本当にそうです。プログラミングをゼロから学ばなくても作れるようになってきた。これからの時代、プログラミングに求められる能力は、ChatGPTにうまく伝えるための良い文章が書けることかもしれない。これは革命的なことです。
池上氏:ぼくはインターネットが普及しはじめたとき、友だちに「こんな素晴らしいものが生まれたんだよ」と話したら、「そんなものは辞書を引けばいいのだし、いらないよ」といわれました。でもいまはインターネットを知らない人はいないし、使わない人はまれでしょう。
茂木氏:それと同じように、いまの高校生が社会に出るころには、AIを使うのが当たり前の世の中になっているということだね。
池上氏:だから、いま始めないと。最初に取り組んだ人が一番得をする。それはいつの時代においてもそうです。

高校生と保護者を合わせた約300名が会場に参加
アートとコンピューターは近い関係にある
茂木氏:この前、ある出版社の編集者が話していた。昔は絵のうまい人が漫画家になっていたけれど、これからはそうじゃなくて、ストーリーがうまいとか、発想が豊かだというタイプの人が活躍するかもしれないと。AIを使ってマンガやアニメが描けるからね。
池上氏:コンピューターがアートの創作を手助けしてはいけない理由は何もないんです。ぼくはChatGPTというはしごを使って、人間の知性を高く超えたものをつくっていきたいし、この新学部でもそれを目指したい。
茂木氏:情報科学芸術学部はアートを重要視している。今日来ている高校生のなかにもアートに興味がある人もいるでしょう。池上先生もAIを使った芸術表現をしていますよね。
池上氏:アートとデータサイエンス(情報科学)って、実はすごく近い存在です。コンピューターの性能が進化したことで、この10年くらいでコンピューターを使ったアートの制作が格段にしやすくなった。だけど残念なことに、美術学校とプログラミングを学ぶ工業系の学校はいまだに分かれている。その両方を一括で学べることが、この新しい学部の特長です。

「新学部1期生は面白い学生が集まる」と話す池上氏
数学の勉強は必要? 1期生になるのは不安?
茂木氏:ちょっとぼくが女子高校生という設定で質問していい? 私、数学がそんなに得意じゃないけど、アートには興味があります。新学部は理系学部ですが、こんな私でも受けて大丈夫ですか?
池上氏:まったく大丈夫。でも、数学は勉強しておいたほうが良いけどね。なぜ良いのかというと、数学的なものの考え方が養われるからです。数学というのは一種の「言語」。その読み解き方がわかることは大事だと思います。
茂木氏:もう一つ質問していいですか。新学部ができても、最初は様子がわからないから1期生になるのは不安です。
池上氏:それは不安だよね(笑)。でも、どの大学でもそうだけれど、学部学科ができたときの1期生や2期生に面白い学生が集まります。これは本当にそう。だから、ぼくも1期生にどんな学生が来てくれるのか本当に期待しています。

軽妙な掛け合いで新学部を紹介したお二人の対談は約40分間に及んだ
新学部で第2のエイダを生み出したい
茂木氏:跡見学園は日本人女性が創設した国内で最も歴史のある私立の女子教育学校で、元々は皇室とも深い関係にあった伝統校。そうした大学が、池上先生という異分子によく声をかけたなと思う。跡見学園女子大学が新学部で思いっきり飛び上がろうとしている表れですね。そろそろ時間になってきたので、跡見に新風を吹き込む池上先生から一言をお願いします。
池上氏:みなさん、人類初のコンピュータープログラマーは女性だと知っていますか。19世紀のイギリスの数学者エイダ・ラブレスです。ぼくはこの大学で第2のエイダを生み出したいと思っています。新しいコンピューターの使い方とか、新しいAIの使い方は必ず見つかるはずで、そこから将来の産業が生まれるかもしれない。だれもが手元で操れる機械はコンピューターだけです。それはいまや脳の一部になっている。ChatGPTを使わない人は脳の一部が欠けていると思われるような時代になってくると思います。時代が塗り替わるときに、面白い挑戦をしたい高校2年生はぜひ受験してください。
<跡見学園女子大学が構想する「情報科学芸術学部(仮称)」とは>
2026年度開設を目指す新学部。デジタル・情報化社会に求められるAI(人工知能)やデータサイエンス(情報科学)の知識、技能を身につけ、同時に新しい芸術表現であるメディアアートを学びます。「科学」と「芸術」双方の世界の知見を得ることで、新たな発想や多様なものの見方を養います。そうして培った技能や感性で、次代を創る人材を育てたいと考えています。この新学部は4年間を通して都心の文京キャンパスで学ぶ予定です。