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2020年3月16日
大学

【学長メッセージ】どんな未来にでも、美しく生きていける人へ —令和2年3月18日、母校を旅立つ皆さんへ—

どんな未来にでも、美しく生きていける人へ

   ——令和2年3月18日、母校を旅立つ皆さんへ——

 

 

跡見学園女子大学学長     笠原清志

 

1)卒業式・修了式の中止

跡見学園女子大学は、昨今の新型コロナウイルスによる新型肺炎の拡大状況を鑑 み、文京シビックホールにて開催予定であった卒業式・修了式の中止を決定しました。新型肺炎の拡大は私たちの想定をはるかに超えるレベルで進行し、日常生活のみならず経済、社会システムのあらゆるレベルで深刻な影響を与えていくものと思われます。

 

今回、晴れて卒業・修了を迎え新しい人生の旅立ちを準備していた学生の皆さん、そしてそのご家族、関係者の皆様におかれましては、この日を心待ちにしていたものと思います。しかし、今回、学生の健康と安全の確保、そして感染拡大を防ぐという意味で、大学としては中止という苦渋の選択をしました。関係する皆様のお気持ちを考えますと、大変申し訳なく思いますが、現在の状況を考え跡見学園女子大学の決定についてご理解を賜りたいと思っています。

 

2)漠然とした不安な未来

昨年の12月末、クリスマスを家族や友人と楽しく祝っていた皆さん、そして新年に神社やお寺で社会人への決意を誓っていた皆さん、そして私も含めその2ヵ月半後に、大学の卒業式・修了式が中止になるとは夢にも思っていなかったと思います。当時、中国の武漢では肺炎患者が急増し、不安から患者が病院に殺到しパニック状況であることは報道されていました。

 

しかし、それは中国の1都市での出来事であり、日本の私たちの生活にはあまり関係のないことと思われていました。それが2ヵ月半後には新型肺炎が世界に拡散し、日本でもコンサート、スポーツ等の各種イベントの中止、小・中・高等学校の授業自粛要請がなされ、経済、社会システムのあらゆるレベルで深刻な影響が生じつつあります。私たちは予測できない未来にたじろぎ、言葉には表現しにくい漠然とした不安に襲われています。

 

3)通過儀礼の役割

卒業式・修了式は、学生生活を終えて新しく社会に旅立つ際の通過儀礼といったものです。当日は、髪型を整え袴や着物などでもう一人の自分を精一杯に演出し、式の終了とともに学生生活はこれで終了し、明日から社会人になることを決意します。通過儀礼とは、日常から離れて非日常を経験し、再び新たなる日常へと戻っていく重要なプロセスです。

 

今回、卒業式・修了式を開催できず、学生生活を終えて新しく社会に旅立つ皆さんを見送ることができませんでした。皆さんは大学生活の最後のところで、ゼミや部活、サークルの仲間、そしてゼミの先生に別れの挨拶もできず、思い出を語り合うこともなく大学を去っていくことになりました。このことは、学生生活で何かを置き忘れたような気持ちをずっと持ち続けることに繋がり、他方で新しい社会に適応する際に、「これから頑張るぞ」といった気持の整理ができにくくなるのではないでしょうか。

 

家族や地域の機能が弱体化していけば、社会が準備する通過儀礼は徐々に形骸化していくことになります。ネット社会の普及を見ますと、社会の規制力が弱体化するだけ、個人の自由度は飛躍的に高まります。そんな時代だからこそ、あらゆる問題を他人、環境、そして時代のせいにしない生き方、つまり覚悟というものが問われます。私は今回の卒業式・修了式の中止をきっかけとして、皆さんが自らの心の軌跡を振り返り、「今、日本と世界で何が起きているのだろうか」「自分はこれからどう生きていくべきなのか」といったことを考えるきっかけにしてほしいと思っています。

 

その際に、「自分を見つめるもう一人の自分を持つ」ことを求めます。私たち日本人は、絶対的な神への信仰の代わりに、他者の目、集団や組織の規制力、そして社会の習慣や伝統をより多く受け入れて道徳や規範といったものを創ってきました。しかし、ネット社会の普及に伴い、他人の目をそれほど気にする必要はなくなりました。また、集団や組織の規制力は弛緩し、社会の習慣や伝統はグローバル社会の進行で急速に衰退しつつあります。私たちは今まで以上に、自らを律し自らの意志と力で生きていくことを求められているのです。今回、大学による卒業式・修了式という通過儀礼は無くなりました。その代わりに、皆さんには自分自身による心の通過儀礼が求められているのです。

 

4)「自律し自立した女性」を目指して

跡見学園の学祖、跡見花蹊先生は江戸から明治への時代の転換点において、「日本文化の教養を理解し、凛とした美しさを持った女性」、「自律し自立した女性」の育成を目指して女子教育をスタートさせました。この「自律し自立した女性」とは自らを律し、自らによって立つ、という意味で、100年以上を経過した今日でも重要な、そして多くの示唆を我々に与えてくれます。

 

教養とは、多くのことを知っているという意味ではありません。真の教養とは、「自分を見つめるもう一人の自分を持つ」ということではないでしょうか。何が起こるのか予測できない時代、つまり不確実性の時代にある私たちは、今まで以上に真の教養と自らの力によって個人を確立しなければなりません。跡見学園女子大学の卒業生として、どんな未来にでも美しく生きていってほしいと思っています。

 

跡見学園の歴史と文化の中には、人と人とを自然に結びつけ、そこに新しい可能性を生み出していける不思議な力があるように思います。卒業した後、生活や仕事に迷った時、新座キャンパスや文京キャンパスを訪ねてきてください。偶然、ゼミの先生に出会うかもしれません。また、キャンパスを散歩するだけでも、頑張った学生時代を思い出し、元気をもらうことができるかもしれません。跡見学園女子大学での学生生活は、卒業しても永遠に皆さんの心の中にあり、心の支えとなってくれるものと確信しています。

 

新型肺炎の蔓延により卒業式・修了式を開催できなくなりましたが、令和2年3月18日、母校を旅立つ皆さんの未来に大いなる幸あれと祈念し挨拶に代えさせていただきます。ご卒業おめでとうございます。